2011年2月。
今日もまだ帰らないのか、時刻は22時。
連日連夜、上司が帰らないから帰れないという名のサービス残業が続く。
2ヶ月ほど前に会社の方針が変わり、営業成績に関わらず20時までのサービス残業が暗黙の了解で定められた。
20時を過ぎても全く帰るそぶりを見せない上司を横目に帰宅するのも気が引ける。
でも・・・ああぁ、、、帰りたい。
帰りたい。帰りたい。。
帰りたい。帰りたい。。帰りたい。。。
僕は約2年前、飲食業界から不動産業界に転職した。
固定給もそこそこ、歩合給も有り、しかも定時退社という条件は、飲食業界で朝早くから終電間際まで働いていた僕にとっては夢のような世界であった。
25歳から心機一転、入社後は右も左も分からない世界で営業マンとして我武者羅に働いた。
入社して1年経つ頃には、全国に500店舗以上ある大手フランチャイズチェーンの月間成約トップ10を争うほどの成績を上げられるようになった。
成績が上がれば、褒められ、歩合給も増え、生活が潤う。
だから会社で働く事が楽しかったし、何も不満は無かった。
しかし、状況は変わっていく。
社内制度が大幅に変わり、歩合給が減らされ、個々の営業成績に関わらず20時までのサービス残業が半強制的に課せられた。
会社の業績が下がっているのなら話しは分かるが、売上も業績も上がっている。
特別大きな支出があった訳でもない。
正直、会社のやり方に腹も立ち不満もあったが、こちらは雇われる身。仕方がないと頭を切り替え働き続けた。
給与が減っても家族とゆっくり過ごす時間が持て、日々暮らしていける分のお金が有れば、それでよかった。
しかし、状況は変わり続ける。
これまでは早めに帰宅できた社員達からすると意味の見いだせないサービス残業はストレスでしかない。
社内の雰囲気は次第に悪くなっていった。
帰宅時間は日に日に遅くなり、上司が帰るまで帰れないという空気が社内全体を覆いつくし、僕たちは疲弊していった。
頑張れば、頑張るほど豊かになれると思っていた。
頑張って成果を上げれば、それは必ず自分に返ってくると信じていた。
しかし、それが叶わない場所もある、ということをこの時に痛感した。
頑張る対象や場所を間違えると、その成果は報われない。
その後も帰れない日々は続き、僕の不満は頂点に達していた。
今すぐにでも辞表を叩きつけ帰ってやりたい気持ちをグッと堪え、僕はこの状況を脱する作戦を考え始めた。
連日連夜、ネットサーフィンに明け暮れる日々。
何かヒントは無いのかとキーボードを叩きまくった。
そんな時「独立起業」というキーワードでいくつかのサイトがヒットした。
今すぐにでもこの状況を抜け出したかった僕は、翌日その掲載元の行政書士事務所を訪ねた。
会社で鬱憤の溜まっていた僕と行政書士との話しは大いに盛り上がり、その場で会社を作ることに決めた。
トントン拍子で話しは進み、2ヶ月後には会社を辞め、3ヶ月後には法人を設立して起業家人生がスタートした。
いま思い返しても、苦痛から逃れるための逃避行的なスタートであった。
起業当初、新規開拓の日々、売上も上がらず、不安で不安で毎日胃が張り裂けそうだった。
会社組織という存在から逃れ、自由を求めての起業であったが、実態は全く自由ではなかった。
言葉では知っていた「自由には責任が伴う」ということを痛感した。
会社員時代、歩合給が減ったとか、定時に帰れないとか、グチグチ言っていた自分が懐かしい。
会社を辞め、会社を作って痛感した。
会社員時代、自分はどれだけ会社に守られていたのか、ということを。
これまで僕は起業しなければ、自由は手に入らないと思っていた。
その自由の先に好きなことがあると考えていた。
でも、起業した僕は全く自由ではなかった。
そして何より、自分の好きなことが何なのかも、分からなかった。
あれから6年が経ち、いま思う。
自分が何を大切にし、何をしたいのかを知らなければ、起業したとしても心からの自由を手にすることはできない。
それは例え事業が上手くいき大金を手にしたとしても。
有り余る時間を手に入れ、その身が自由になったとしても、心が満たされ自由になることはない。
会社を辞めて分かった。
会社員でも起業家でも好きなことは出来る。
異なるのは背負う責任の範囲と自由度の社会的限界値なのだ。
起業して責任を全て自分で負えば確かに自由度は高くなる。
しかし、今は少しずつ自分のスタイルで働ける会社も増えてきている。
だから、もし好きなことを仕事にしたいと思う人がいるのなら、自分のスタイルで働ける会社に転職するという選択も視野に入れて欲しい。
その好きなことが仕事に出来る環境を経験して、それでも起業したいと思うのなら、僕は起業を勧める。
自分が何を大切にし、何をしたいのか?
その問いを持ち続け、自由への責任を果たし、好きなことをして暮らしていこう。
心の声に迷いが生じたとき
行き過ぎたポジティブシンキングも
理路整然とした理由もいらない。
ただ自分を信じ、具体的に動き出せばいい。
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