今日も休めない仕事が続く。
何とかしなければいけない事は分かっていた。
こんな状態をいつまでも続けられるはずがない。
平日は朝から晩まで働き、サービス業の宿命だと自分に言い聞かせ、土日も顧客とのアポイントを取り休み返上で働き続けていた。
僕の手帳はいつも仕事の予定ばかり。
独身時代は飲食業界で働き、ハードワークには慣れていた。
だから体力的には、今の仕事量も熟せてしまう。
しかし、家族と過ごす時間も無ければ、仕事の悩みを話せる相手もいない。
体力的には何とかなったが精神的には、かなり追い込まれていた。
この頃の僕は、とにかく手帳に余白を作ることが怖かった。
余白を作って収入が途絶えることが怖かった。
あの起業当初に味わった胃が張り裂けるような日々はもう懲り懲りなのだ。
だから僕は手帳を仕事の予定でいっぱいにする事で、その不安に立ち向かおうとした。
いや・・・正直に話そう。
手帳を仕事の予定でいっぱいにすることで、お金が無くなる不安から逃れようとしていた。
そして起業当初、顧客ゼロの状態から新規開拓に奔走していた日々を思うと、既存顧客の期待に応えずにはいられなかった。
顧客からの期待とお金に対する不安。
顧客の期待を満たし、お金の不安を解消するために、僕は出来るだけ沢山の仕事をこなそうとした。
そして馬車馬のように働き、コントロール不能な自分のビジネスの奴隷となっていった。
そんな目まぐるしく働く日々、1冊の本に出会った。
「人生を変える80対20の法則」リチャード・コッチ(著)仁平和夫 (訳)
この1冊の本が僕の働き方を大きく変えてくれた。
この本はイタリア人経済学者ヴィルフレド・パレートが発見した「結果の80%は原因の20%からもたらされる」というパレートの法則について書かれたものだった。
自由を求め独立起業したものの、自由とは程遠く馬車馬のように働く日々。
そこからの脱却を目論んでいた僕は、直ぐにパレートの法則を使い自分の仕事についての分析に取り掛かった。
すると驚くべきことに、売上、利益、労働時間など多くの分野で80対20に近い数値が弾き出された。
自分がこれまで馬車馬のように働いていた仕事の80%は、たった20%の利益にしかなっていなかった。
僕はこの現実に愕然とした。
そして大した労働もなく手間のかからない20%の仕事が80%の利益を生んでいた。
これまで利益を得るには、たくさんの顧客を獲得して、たくさんのサービスを提供しなければならないと思っていた。
何事も多ければ多いほど良いと思っていた。
しかし、この数字で弾き出された事実によって、物事に対する見方は大きく変わった。
そして僕は思い切って、仕事のやり方を変える決断をした。
80%の利益を生む20%の仕事に集中することにしたのだ。
・・・とはいえ、自分がこれまでやってきた80%の仕事を急に放り出すわけにはいかない。
だから、ここは慎重に時間を掛けて減らしていった。
減らしていく80%の仕事に係わる新規案件を受け付けること、こちらから積極的にフォローすることを、こっそりやめた。
つまりゆっくりとフェードアウトする作戦に出たのだ。
それを2年以上、ゆっくり丁寧に丁寧にやり続けた。
そして、その仕事に使っていた時間を少しづつ80%の利益を生む20%の仕事に使うようにしていった。
自分の時間と労力を、最大の利益を生む仕事に集中させることにしたのだ。
それは自分の人生をこの手に取り戻す。
本当の意味での第一歩だった。
そして僕は仕事で成果の出始めたパレートの法則を、自分の日常生活にも取り入れるようになっていった。
自分が日常生活で、特に幸せを感じる時間はどんな時間だろうか。
僅かな時間で、とても心が満たされることはどんなことだろうか。
パレートの法則を知ってからというもの、僕は事あるごとに自分に問い掛け、心の声に耳を傾けた。
答えはいつもシンプルだった。
僕の心が満たされるのは、大切な人と過ごす時間と、好きなことをしている時間の2つだった。
僕はいつも幸せを感じていたいし、それを大切な人と分かち合いたいと思っている。
そして自分の好きなことをするために、十分な時間を使いたいと思っている。
だからこれからは自分にとって、特に幸せを感じることに出来る限りの時間を使っていく。
そのために、それ以外の時間を出来る限り減らしていく。
幸せな時間や好きな時間を増やすために。
それ以外の時間は減らしていく。
それが今すぐ全部出来ないことも、全部出来ることなどないことも知っている。
だから、いつも理想は理想のまま。
でも、それも受け入れていこうと思う。
理想が道半ばであることを受け入れ、それでもふつふつと湧き出す理想への欲求を成長の糧としていく。
そうやって踠き、受け入れ、成長しながら、いつも大切な人と幸せを分かち合い、好きなことをやり続けるというシンプルな生き方こそが、僕の望む最高の人生である。
あれから3年半が経ち、僕の手帳には余白が広がった。
でも相変わらず、めちゃめちゃ忙しい日もある。
変わったことは、忙しさをコントロール出来るようになったこと。
今は土日に仕事を入れることもないし、闇雲な長時間労働もなくなった。
自分の大切にしたいことを大切にして生きる。
そのためには自分が何を大切にしたいのか。
自分はどんな生き方をしたいのかを知らなければいけない。
そして最も大切にしたい少数のことに、自分のエネルギーを集中的に注いでいく。
自分を知り、どこに向かいたいのかを知らなければ、時を漂い行き先もわからず漂流するだけで、いつの間にか歳ばかりが過ぎていく。
そんな恐怖心も手伝ってなのか、いつも自分に問い掛ける。
自分は何を大切にしたいのか?
自分はどう生きたいのか?
その問いに答え続け具体的な行動をしていくプロセスそのものが、もしかしたら既に僕にとっての理想の生き方なのかもしれない。
限られた資源で最大の成果を上げるには
自分を知り、焦点を絞り
最も大切な少数のことに
あらゆるエネルギーを集中させること。
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