ぼくはiPhoneだけで写真を撮っている。
iPhone写真家だ。
写真家だけどカメラは持っていない。
だから写真展をやると見に来てくれた方によく聞かれる。
なぜ、iPhoneなのですか?
なぜ、カメラを使わないのですか?
なぜ、一眼レフを買わないのですか?
確かに写真家を名乗り、写真展をやる人間が「iPhoneでやってます」というのは、不思議なことなのかもしれない。だけどそれは、ぼくにとってiPhoneじゃないとダメな理由があるからなのです。
そもそもiPhone写真家ってなに?
当初この「iPhone写真家」と名乗ることに、かなりの抵抗があった。
写真家として生計を立てているわけでもないし、これまでずっと写真をやってきたわけでもない。ましてや自分の写真が大層な賞を取ったわけでもない。客観的に見ても、いわゆる素人同然の自分が「写真家」と名乗るなど、あまりにも身の程知らずだと思ったのだ。
ただ、自分で撮った写真を多くの人に見てもらいたいと思い、インスタグラムの中だけだった世界からリアルな世界へと飛び出し個展まで開いてしまった。当初はプロフィールなども作らずに活動をしていたのだが、個展も回数を重ね、多方面に作品提供などもしていくこととなり、自分が何者なのかを名乗る必要が出てきた。
写真を撮って活動をしていることは確かなのだが、カメラすら持っていない自分が写真家と名乗るのは如何なものか・・・だけど自分が何者なのかを説明する必要もある・・・
そこで絞り出した肩書きが「iPhone写真家」だった。
写真展のプロフィール、作品提供先で使うプロフィール、SNSのプロフィールなどにも「iPhone写真家」という肩書きが加わった。そんな肩書きを見て興味を持っていただいた方から「なぜ、iPhoneなのですか」と聞かれるわけである。
ぼくがiPhoneだけで
写真を撮りつづける理由
先のことは誰にも分からない。
でもきっと、ぼくはこの先もiPhoneで写真を撮りつづけるだろう。
なぜ、iPhoneなのか?
なぜ、一眼レフやコンデジではないのか?
それはiPhoneじゃないと撮れない瞬間があるからなのです。
iPhoneじゃないと撮れない瞬間ってなんぞや?
そんな声も聞こえてきそうなので、ご説明しますね。
ぼくが思うiPhone写真家として最大の強みは「いつもカメラ機能を携帯していること」だと思うのです。家から出かけるとき、財布やリップクリームは忘れてもiPhoneを忘れることはありません。仕事もほとんどiPhoneがあれば出来てしまうので、いつも肌身離さず持っています。だから日々街を歩いているときに感じた、心の動く瞬間、ハァッとした瞬間を瞬時に撮影することができるのです。
瞬時に撮影できると言っても、被写体に気づいてから2秒くらいはかかるので、実際は撮り逃しばかりです。iPhoneを片手に握りしめている状態でそのくらいかかるので、被写体に気づき慌ててカメラを開こうとしてもモゾモゾしてうまく開けません。だからピストルを構えるようにサッと撮影体勢に入れるようにしたい。ぼくにとっては、それくらい心の動いた瞬間を捉えることは大切なのです。厳密には被写体に気づいてから撮影体勢に入るので、その瞬間は過ぎているのですが、少しでも心の動きに撮影スピードを近づけたいと思っています。
日常のハァッとする瞬間、心の動く瞬間を、いつも探して歩いていたい。だから、ぼくはいつも肌身離さず持っているiPhoneで撮影を続けているのです。
肩書きよりも
大切にしていること
そんな理由で、ぼくは今もiPhoneだけで撮影を続けている。
しかし、心が動いた瞬間を捉えるということであれば、ちゃんとしたカメラを買って撮影のチャンスが来るまでカメラを構え待っていれば良いのではないか?
そんなことを思い立ち、カメラ屋さんにカメラを見に行ったこともある。だけど5分も見ないうちに帰ることにした。確かに、ちゃんとしたカメラを買えば画質は良くなるだろう。写真展の時には、500ミリ×500ミリのパネルに写真を印刷して展示もする。もっと画質が上がれば、それはそれで有り難い。しかし、そのためにいつも街を歩く時にカメラを持ち運ぶのは自分のポリシーに反する。
そもそも写真を撮るようになったのも、仕事の合間に街を歩く散歩がきっかけだった。
ぼくは「iPhone写真家」としての前に、大好きな散歩を大切にしたいのだ。
散歩はできるだけ身軽に手ぶらで行きたい。
散歩以外の外出もできるだけ身軽なのがいい。
物理的に身軽になるだけで心も軽く自由になる。
目的地もない、ただ心のままに、ふらふらと歩いていく時間が好きなのだ。その時に荷物が多いと、それだけで疲れてしまう。手ぶらでポケットにハンカチとティッシュ、リップクリームと電子マネーが使えない時用のお札、それにiPhoneがあれば1日不便はない。日帰りならどこへでも行ける。
iPhoneを片手に街を歩くだけで、心にアンテナが立ち、いつもの見慣れた景色が、いつもと違う景色だったことに気づかされた。写真を撮り始めたことで毎日の散歩がより楽しく豊かな時間となった。ぼくにとっては、写真を撮ることに専念するよりも、写真を撮ろうと意識して街を歩く心豊かな時間の方が大切なのだ。
だからぼくは写真家にはなれない。
写真を撮ることに自分のすべてを賭けることはできないから。
ぼくは手持ちのiPhoneで写真を撮る「iPhone写真家」だ。
ぼくにとって写真は、心を豊かにしてくれる、きっかけである。しかし、写真を撮るから心が豊かになるわけではない。写真を撮ろうと意識して歩くことで、ぼくは心の豊かさを感じられる。
それも出来るだけ身軽に、自由に、ただこのまま歩いていたい。だからこれからも、ぼくはiPhoneで写真を撮りつづけていくだろう。
ぼくがiPhoneだけで
写真を撮りつづける理由
・さりげない日常の瞬間を捉えるにはiPhoneが最適だから。
・どれだけ持ち物を身軽にしてもiPhoneは常に持ち歩いているから。
・写真撮影を重視するよりも撮影を意識して歩くことで、心の豊かさを感じられるから。
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